2016年02月12日
ソロスの錬金術 著者:ジョージ・ソロス 総合法令出版株式会社
株式、為替、商品、全ての市場の投資家向け 初級、中級、上級、全ての投資家向け
世界で最も偉大な投機家、ジョージ・ソロス氏が書いた珠玉の1冊。ソロスがクォンタム・ファンドのファンドマネージャーとして1986年から1993年までに記録した業績に対するオッズは473億対1(本書「推薦の言葉」 ポール・チューダー・ジョーンズ二世より)と言われ、その破壊的、天文学的なパフォーマンスの真髄を読める本である。
ソロス氏は、初版の前書きで「本書は本当の意味で私のライフワークである」と書き出しており、ソロス氏のこの書籍に対する思いと姿勢からも、ぜひ全ての投資家に読んで欲しい1冊といえる。「金融市場は常に間違っている」という言葉に代表されるように、いかに市場の価格および投資家の行動が矛盾に満ちているかを、ソロス氏自身の明快な理解に沿って解説しており、この解説は他に例を見ない特異なものであり、ある種の心理といえる。そして、ソロス氏の圧倒的なパフォーマンスが物語る通り、ソロス氏の考えは正しく、市場は間違っていることになる。
ソロス氏が最も大きく取り上げているのが、ソロス氏自身が作り上げた「再帰性(再帰機能)」と呼ばれる概念であり、この理論は非常に興味深い。この理論を一言で解説するのにふさわしい言葉はなく、ぜひ本書を読んで、その理論に触れて欲しい。この理論が作り上げられたのは、ソロス氏の「自己を意識し、自己を理解することに強い関心を持ち、自分自身を理解することが最も重要な課題であると考えた」というバックボーンがあったからだと考えられる。このソロス氏のバックボーンは、「汝自信を知れ」という、古代ギリシャの格言に通じるものであり、ソロス氏が深く哲学に傾倒したことをうかがわせるものだ。
「錬金術」という名称を用い、ソロス氏自身の金融投資術を解説しながらも、哲学書でもある1冊といえる。また本書が執筆された時期が、1980年代後半であり、1985年9月のプラザ合意、1987年10月のアメリカのブラックマンデー、1989年末の日本のバブル崩壊など、金融市場における歴史的な転機にリアルタイムに書かれたことも、ソロス氏の深い洞察に触れることができ、「珠玉の1冊」と称される所以である。中でも、日本の市場や金融当局に関する記述も随所に見られ、非常に学ぶことの多い本と言える。ウォーレン・バフェット氏とは、全く異にする内容ながら、投資家として必ず何度も読み返して欲しい本だ。哲学的な表現や考えも多く、非常に難解な部分があることが、本書のハードルを高くし、また楽しい部分でもある。私にとっては、生涯の座右の書の1冊に出会えた。
目次
謝辞
新版のための推薦の言葉 ポール・A・ボルカ―
推薦の言葉 ポール・チューダー・ジョーンズ二世
新版のための序文
新版のための前書き
第一部 理論編
第1章 株式市場における再帰性
第2章 為替市場における再帰性
第3章 信用・統制サイクル
第二部 歴史的な見通し
第4章 国際的債務問題
第5章 協調融資体制
第6章 レーガンの帝国主義的循環
第7章 銀行システムの発達
第8章 アメリカの寡占化
第三部 リアルタイムの実験
第9章 実験開始-1985年8月
第10章 第一実験-1985年8月~12月
第11章 コントロール期間-1986年1月~7月
第12章 第二実験-1986年7月~11月
第13章 結論-1986年11月
第四部 評価
第14章 金融錬金術の展望―実験の評価
第15章 社会科学の苦悩
第五部 処方箋
第16章 自由市場vs規制
第17章 国際中央銀行を目指して
第18章 規制改革のパラドックス
第19章 1987年の大暴落
エピローグ